吾輩(わがはい)は貓である。名前はまだ無い。ふと気が付いて見ると書生はいない。たくさんおった兄弟が一疋(ぴき)も見えぬ。肝心(かんじん)の母親さえ姿を隠してしまった。その上今(いま)までの所とは違って無暗(むやみ)に明るい。眼を明いていられぬくらいだ。はてな何でも容子(ようす)がおかしいと、のそのそ這(は)い出して見ると非常に痛い。吾輩は藁(わら)の上から急に笹原の中へ棄てられたのである。吾輩(わがはい)は貓である。名前はまだ無い。この書生の掌の裏(うち)でしばらくはよい心持に坐っておったが、しばらくすると非常な速力で運転し始めた。書生が動くのか自分だけが動くのか分らないが無暗(むやみ)に眼が[...]